田畑晴菜・
小山史乃観
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「CLで優勝する」「なでしこ
ジャパンで世界一を獲る」

C大阪堺レディース、田畑晴菜、小山史乃観が描く自身と女子サッカーの未来

周りにいたのは“上”を目指す
トップレベルの先輩たち

セレッソ大阪は、男子だけではなくアジアや女子の育成活動も積極的に推進してきた。この夏には、男子U-15、U-18、そして女子U-18チームがそれぞれ優勝を果たし、クラブは史上初のユース年代3冠を成し遂げた。

今回は、女子のトップチームであるセレッソ大阪堺レディース(なでしこリーグ1部)に所属する20歳の田畑晴菜と17歳の小山史乃観にフォーカスする。

サッカーを始めたきっかけを「2歳上の兄の練習について行ったらいつの間にか」と話す田畑と、同じく「3歳上の兄がいてその影響で」という小山。現在C大阪が取り組む「年齢・性別」の枠を超えたトレーニング「スペトレ」を自然と実践してきたような二人が語るアカデミー時代、女子サッカー、そして自身の将来像とは。

取材日:2022年9月27日

PROFILE

田畑 晴菜 HARUNA TABATA セレッソ大阪堺レディース

2002年5月27日生まれ。大阪府出身。身長163cm体重55kg。ヴィエントフットボールクラブとよの→JFAアカデミー堺→C大阪堺ガールズ→C大阪堺アカデミー(現・C大阪堺ガールズU-15)→C大阪堺レディース。高い守備力を見せるDFだが、最前線でのプレーもこなす。2021シーズンはなでしこリーグで5得点を挙げた。U-16、U-19、U-20日本女子代表。

小山 史乃観 SHINOMI KOYAMA セレッソ大阪堺レディース

2005年1月31日生まれ。大阪府出身。身長159cm体重51kg。塚原サンクラブ→C大阪堺ガールズ→C大阪堺アカデミー(現・C大阪堺ガールズU-15)→C大阪堺ガールズ→C大阪堺レディース。運動量と攻撃力あるサイドバック。2021シーズン史上最年少(16歳)でなでしこリーグベストイレブン受賞。高い戦術眼とテクニックを持つ桜の10番。U-16、U-17、U-20日本女子代表、2022年10月なでしこジャパン初選出。

左:田畑 晴菜 右:小山 史乃観

小山 史乃観
小山選手は、小学生時代に所属していた塚原サンクラブ(大阪府高槻市)で、現在C大阪U-18のキャプテンである川合陽(ひなた)選手と同学年で一緒にプレーしていたそうですね。
小山:はい。私は小学4年生から入って、陽選手はずっといたのでその違いはあったんですけど、ずっと一緒にプレーしていました。陽選手はすごくうまかったので、自分はついていくっていう感じでした。
田畑選手は、中学時代はJFAアカデミー堺ですが、入ったきっかけは?
田畑:JFAアカデミー堺の存在を知って、寮生活でサッカーに集中できる環境だなと思いました。自分は大阪でも田舎のほうに住んでいて、通うとどこへ行くのも遠いので、寮生活がいいかなという思いもあって選びました。
田畑選手は高校から小山選手は中学から、セレッソのアカデミーに加入します。経緯を教えてください。
田畑:中3の時に「進路をどうしよう?」となった時、(JFAアカデミー)福島にそのまま進もうと思ったんですけど、状況的に難しかったんです。そこで当時の(C大阪堺ガールズの)岡本(三代)監督に練習に誘ってもらいました。練習参加するとめっちゃ楽しかったので、入りました。
小山:私は小学生の頃にエリートクラスに誘ってもらえて、そこからセレッソ一筋です。女子だけのチームが初めてだったので、最初はどんな感じかよく分からなかったんですけど、上の先輩たち、(林)穂之香さん(ウェストハム・ユナイテッド/イングランド)たちがすごくうまくて。そこに追いつきたいと感じました。
二人が初めて会ったのは田畑選手が入った2018年ですか? 当時小山選手は中2です。
小山:兄と晴菜さんのチームが対戦したこともあり、知っていました。
田畑:初めて会った当初から、(浜野)まいか(INAC神戸レオネッサ)と史乃観は、同年代の中では抜けていて、「うまいな」っていう印象はありました。
田畑選手は入った当初はレディース(トップチーム)、それともガールズ(U-18チーム)ですか?
田畑:行ったり来たりしていました。その時、ガールズはチャレンジリーグ(なでしこリーグ3部[YM1] )でレディースはなでしこリーグだったので、両方に行ったり来たりしていました。中学までは同じ年代の選手としかサッカーをしてこなかったんですけど、セレッソに来て、年齢に関係なく大人の選手とサッカーをすることが初めての経験でした。みんなうまくて、最初は圧倒された記憶があります。上に絡めるように必死で練習していました。
小山選手は中1、中2と最初の2年間はガールズでの活動だったと思うのですが、当時の記憶は?
小山:まいかと一緒に負けないように頑張っていた記憶しかないです(笑)。
19年には、中3でレディースの試合にも出ています。
小山:何人かはレディースにも出ていたので、自分も入りたい気持ちがありました。「やっと出られる」って嬉しかったんですけど、みんなうま過ぎて、毎日刺激ばかりでした。
身近にお手本が多い環境だったんですね。
田畑:常に目指すべき選手がいたので、「上の人に負けないように」という思いで練習していました。
小山:意識がトップレベルというか、今はなでしこジャパンに入っているんですけど、「こういう人たちが入るんだろうな」と感じさせる先輩ばかりでした。オフもオンも見習うことばかりで。練習に向かうまでの準備もそうですし、練習でもダメなプレーはダメって言ってくれるし、いいプレーは褒めてくれる。自分でも、何が良くて何がダメなのかが分かりやすかった。いろいろ教えてもらいました。

上下関係がなく
風通しのよい環境の中で

林穂之香(ウェストハム・ユナイテッド/イングランド)、北村菜々美(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)、宝田沙織(リンシェーピング/スウェーデン)といった、なでしこジャパンに招集されるレベルの先輩たちに刺激を受け、二人は成長していく。

田畑 晴菜
今の話でもそうですが、セレッソのアカデミーは、男子も女子も仲がいいというか、先輩も後輩も風通しがいいのかなと思います。改めてセレッソ大阪堺レディースの良さはどういうところだと思いますか?
田畑:上下関係が本当になくて、オンでもオフでもみんな元気いっぱいで、単純に一緒にいて楽しいですね。だから、サッカーでも伸び伸びプレーできています。
小山:他のチームと比べると、年齢が10歳とか離れているわけではないので、「手の届く範囲にはいないけど、頑張れば追いつける」みたいな目指すべき姿が見えるんです。その背中を追えるっていうのは、すごくいいクラブだなと思います。
影響を受けた指導者はいらっしゃいますか?
田畑:自分は、中1(JFAアカデミー堺)の時の監督で、今はスペランツァ大阪高槻の監督をされている種田(佳織)さんです。オンとオフの両方ですごく影響を受けました。寮生活だったので、オフの過ごし方とか、プレーでもうまくなるために必要なことを叩き込んでもらいました。セレッソに来てからは、岡本監督からも、今の竹花(友也)監督からも、サッカーにおいて高いレベルで学べていると思います。
小山:自分は、誰から影響を受けたというよりも全員から受けています。その時々で自分に必要なことを教えてもらっている印象です。
今までのサッカー人生で、記憶に残っている試合はありますか?
田畑:やっぱり(U-20)ワールドカップが今までのサッカー人生で一番の思い出です。そこに懸けてきた部分は大きかったので、特別な大会でした。
小山:私もすごくインパクトのある大会として、心に残っています。

W杯で改めて確認した
世界という目標

今年8月にコスタリカで開催されたU-20女子ワールドカップ。連覇を目指したU-20日本女子代表は、グループステージでオランダ、ガーナ、アメリカを破り首位突破を決めた。決勝トーナメントでは準々決勝でフランスをPK戦で、準決勝ではブラジルを下している。しかし決勝でスペインに敗れ準優勝となった。

この6試合全試合に二人はDFとして先発出場している。

左:田畑 晴菜 右:小山 史乃観
U-20W杯では世界の強豪国と対戦しました。
田畑:W杯はずっと目指してきた舞台だったので、すごく強い思いで臨みました。大会が始まる1カ月前くらいの時期はセレッソでもスタメンで出られなかったり、うまくいっていなくて、自分がW杯で活躍している姿を想像できなくなったこともあったんです。でも、「優勝する」という目標に向かって、うまくいかない時でもやり続けたことが、スタメンで試合に出られることにもつながったのかなと思っています。
グループステージ第3節・アメリカ戦では揃ってゴールを記録しています。
田畑:史乃観が先に決めていたので。セレッソの一員としても、史乃観が決めて負けられない、自分も決めないと、っていう気持ちがありました。決めることができて良かったです。
小山選手が大会を通して改めて感じたことは?
小山:まず大会に入る前に、(C大阪と)ポジションが違うなと思って。ポジションの違いで求められることが違うので、そのズレが結構ストレスになっていました。でも今後、上に行くためには、そこでどう自分が合わせていくかは必要な部分だと思い、コーチからも言われて、「やるしかない」と。
その中で、アメリカ戦の得点は、セレッソでFWとしてプレーしていなかったら出なかった得点だったと思います。ずっとあの形は練習していたので。そういう意味では、最初はズレがストレスになっていたんですけど、最後はそこが合わさって結果を残すことができたと思っています。
代表に行けばどういう使われ方をするか分からないですからね。準々決勝では、土壇場で追い付きPK戦でフランスに勝ち、準決勝ではブラジルにも勝ち、決勝はスペイン戦でした。会場全体が日本を応援する空気でしたね。
田畑:3万人の前でサッカーできる環境は初めてで。歓声が本当にすごくて、その中で決勝戦を戦えたことは、すごくいい経験でした。
小山:フランスに勝った時、優勝がちょっと見えた中で、気は緩んでないですけど、全体的に「優勝できるんじゃないか」と思ってしまったことは反省しています。ただ、日本らしさを見せるという部分では、大会を通してすごく見せることができたと思います。応援されるチームになれて、サッカーがこんなに人の心を動かせると思ってなくて。1試合1試合、観客の数も増えていって、すごく楽しかったです。
田畑:試合が始まる前は対戦国の国旗を掲げる人が多かったんですけど、試合に勝っていくにつれて日本を応援する人が増えて、日本の国旗が増えていったんです。人の心を動かすっていうのはこういうことなんだとすごく感じました。
表彰式でも、大会MVPに選ばれた浜野まいか選手がブラジルの選手たちにかわいがられていました。対戦相手の心も動かしたのでしょう。小山選手は昔から浜野選手と一緒にやってきただけに、大舞台で一緒にプレーできたことに特別な思いもあったのでは?
小山:すごく楽しかったです。まいかが活躍すると、自分も活躍しないと、って思わされる。1年ぶりぐらいに一緒に公式戦に出て、まいからしいプレーでチームを引っ張っていて、自分も勇気をもらえて楽しかったです。
「世界への目線」は、この企画のテーマでもあるのですが、先輩の林穂之香選手、宝田沙織選手がなでしこジャパンや海外でキャリアを積んでいます。
田畑:2人とも海外に出て活躍されていますが、自分もヨーロッパでプレーしたい思いがあります。なでしこジャパンに入って活躍すれば、海外に行けるチャンスもあると思うので、常に目指しています。スペインが好きなので、スペインに行きたいです。
小山:私もずっと世界を目標にしてやってきています。自分は穂之香さんと同じ(イングランド)プレミアリーグでやりたいです。穂之香さんをずっと見てきて、自分もその舞台に早く行きたいと思っています。
田畑:U-20W杯が終わった後、沙織さんから連絡が来て「準優勝おめでとう」と言ってもらいました。そこでちょっと話をしました。「準優勝も誇り」と言ってもらえて、自分は「沙織さんの背中を追いかけます」って言いました。
小山:穂之香さんからはちょくちょく連絡をもらっています。W杯の前にも「頑張れ」って言ってもらいました。チームであんまりうまくいってない時とかも、連絡をくれたりします。

今までは追ってきた
次は自分たちが背中を見せる

20歳の田畑と17歳の小山。桜の先輩を追い、W杯で世界と対峙し、あらためて確認する自身の未来。チームは女子プロリーグであるWEリーグへの参入も決まった。そして、小山は10月の国際親善試合とMS&ADカップで、なでしこジャパンにも初招集された。

彼女たちの言葉からは、自身が結果を出すことで、日本の女子サッカー自体を盛り上げていこうという強い気持ちが伝わってくる。

左:田畑 晴菜 右:小山 史乃観
選手としてプレーする上での原動力、どういうところにモチベーションを持ちながら、日々プレーされていますか?
田畑:やっぱり今まで支えてくださったかたや教えてくださった指導者に、自分が活躍している姿を見せて恩返ししたいという気持ちがあります。そして、自分の夢を叶えるためにサッカーをしています。
小山:多分、人間って心が原動力かなって思っていて。負けない気持ちとか、上を目指す心とか、感謝することもそうですし、その中でも家族に喜んでもらいたいことが一番です。
C大阪堺レディースは23-24シーズンからのWEリーグ参入が決まりました。モチベーションは上がりましたか?
田畑:ずっとWEリーグでプレーしたいと思っていたので、1年目から結果を残したい強い思いがあります。
小山:プロは結果が全てだと思います。自分はそこまでメンタルが強くないですが、この2年間で成長させてもらったので。そこをさらにプロとしてのメンタルを鍛えたい。世界で活躍するためには、WEリーグでも結果を出さないと。(参入まで)半年以上あるので、頑張っていきたいと思います。
アカデミー出身者として、後輩にどういった姿を見せたいですか?
田畑:海外に出て結果を残して、憧れてもらえるような存在になりたいと思っています。
小山:今までは背中を見てきたのですが、これからは追ってもらえるように、振る舞いも含め、見本になるような選手になりたいと思います。
最後の質問です。サッカー選手としての将来像は?
田畑:バルセロナが好きなので、目標はバルセロナに入ってチャンピオンズリーグで優勝することです。夢は大きいですが、そこにしっかり向かって、歴史を塗り替えられる選手になりたいです。
小山:澤(穂希)さんの時代が、日本の女子サッカーといえばその時代なので、次は自分たちが日本の女子サッカーを見せたい思いがあります。あと、世界で活躍して、なでしこジャパンで世界一を獲ることが目標なので、その夢を叶えるために、今後も頑張っていきたいと思っています。
CHAPTER #2

セレッソ大阪、アカデミーの力

未来への engine

「世界に通用する選手の育成」を掲げたセレッソ大阪アカデミー。
セレッソ大阪から世界へ。
「未来に美しい花をたくさん咲かせたい」、
そんな未来への原動力に迫る。

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CHAPTER #1

アスリートたちの engine

なぜ、トップアスリートは挑戦し続けるのか。
戦い続けるトップアスリートの原動力に迫る。

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