香川真司 engine

「自分のストロングを
しっかりと把握して証明する」

香川真司が後輩たちへ
伝えたい、プロとして
大切なこと

自分がどう感じるか。考えた中で
ベストなタイミングだった

香川真司が帰って来た。ピンクのユニフォームを着て、再びJリーグのピッチに立つ。「スタジアムでプレーを見たい」。2月1日に古巣・セレッソ大阪が日本への帰還を発表すると、C大阪サポーターのみならず、多くの日本のサッカーファン・サポーターが大きな期待を寄せた。

同月5日、香川は会見に臨み、8番を背負うことを発表。復帰の理由についてはこう述べている。

「2022年のワールドカップが終わり、そこまでヨーロッパでプレーすると決めていて、そのあとは自分がどう感じるかを大事にしていました。そのタイミングで(足の)手術を受けてリハビリもしながら、先のことを考える時間がありました。その中で、このタイミングがベストだと思ったので決断しました」

12年半。欧州の激しい競争のなかで確かな爪痕を残し、積み上げた実績と経験は唯一無二のもの。「一通りは馴染めたかな」。古巣に復帰して約1カ月がたった時期、舞洲にあるクラブハウスで話を聞いた。穏やかな表情ながら、強い意志を持って香川真司が語る。
(取材日:2023年3月1日)

PROFILE

香川真司 Shinji Kagawa セレッソ大阪

1989年3月17日生まれ、34歳。兵庫県神戸市出身。FCみやぎバルセロナJrユース→FCみやぎバルセロナユース→セレッソ大阪→ドルトムント/ドイツ→マンチェスターU/イングランド→ドルトムント→ベシクタシュ/トルコ→ドルトムント→サラゴサ/スペイン→PAOKテッサロニキ/ギリシャ→シント=トロイデンVV/ベルギー。2023シーズンよりセレッソ大阪に復帰。

声援を聞いて感じた
応援してもらえる幸せ

2023年2月18日、ヨドコウ桜スタジアム。明治安田生命J1第1節・アルビレックス新潟戦の1-1で迎えた71分、香川が交代出場する。2010年5月15日、自身の直接FKで試合を決めた第12節・ヴィッセル神戸戦以来のJリーグのピッチだった。21歳だった若者は、12年半が過ぎて33歳になっていた。

前回の在籍時、練習場は南津守でした。現在は舞洲です。日本に戻ってクラブハウスを含めた環境の変化にどんな思いを抱かれましたか?
環境はめちゃくちゃいいですね。日本に帰って来て、メディカルスタッフもみんな勤勉で、選手のためにすべての人たちが働いてくれていると感じます。でもその一方で、この環境に甘えず、選手たちは責任をもってプレーしないといけないですね。
メディカルスタッフの話が出ましたが、言葉が通じることは、繊細な部分を伝える上で大きいですか?
それもそうですし、欧州に行っていたからこそ、メディカルチームは日本のレベルの高さを感じます。繊細さ、細かさ、何より選手のケアに対して全力を尽くしてくれるありがたみを感じます。治療方法も含めて幅広いので、すごく助かっています。
復帰初戦となったJ1開幕戦の新潟戦では途中出場。ピンクに染まったスタジアム、サポーターの声援、ヨドコウ桜スタジアムでピッチに立ったときの思いを教えてください。
ゴール裏を含めて、スタジアムの雰囲気は良かったですね。もちろん、10年以上離れていたので、ファンやスタジアムが進化、変化していることは当然なのですが、とてもありがたかった。自分は「ホームで勝てる」という雰囲気を作っていきたいし、それにはサポーターの力が何より大事。「ホームでは常に満員の中でやれる」そういうチームでありたいと思います。
以前のホーム、ヤンマースタジアム長居は収容人数が多いだけに、満員になることは少なかったですね。
僕は長居も好きですよ。たまには長居でもプレーしたいです(笑)。個人的にも思い入れがあるスタジアムですし、また試合ができればうれしいですね。
ヨドコウ桜スタジアムはサッカー専用スタジアムで、ギュッと凝縮された欧州っぽさも感じるのでは?
それはピッチに立ってみて感じました。サポーターの圧力、熱量を含めてとてもいい雰囲気で試合ができました。サポーターも声を出して応援できる環境にもなったので、もっともっといいスタジアムになっていくと思います。
「スタジアムに着いてファン・サポーターの声援を聞いて、あらためてスイッチが入った。シーズンが始まったと感じさせられる瞬間でもあった」という言葉もありました。
あの声援を聞いて、あらためて応援してもらえる幸せを感じました。ここ数年、なかなかうまくいかないことも多かったのですが、あの試合でサポーターが見せてくれた反応は本当にありがたかったです。大きなモチベーションになりました。試合を迎えるまで、いろんな感情がありましたが、試合だけに集中する雰囲気を作ってくれました。スタジアムに入ったときに、「よし、やるぞ」というスイッチを入れてくれる力、ファン・サポーターが作り出してくれる力は選手にとって非常に大きい。そこはこれからも頼らせてもらうし、僕たちはしっかりとピッチで結果を残す。そういう関係性になっていければと思います。
ピッチに立ってプレーする姿を見て、あらためて香川選手がセレッソに帰って来たことを実感しました。
僕の中では、12年半ぶりとかは関係なくて、これからの未来のことしか考えていません。過去がどうとか、正直、興味がないんです。これからどう作り上げていくかが大事。新しいスタジアムの雰囲気を味わえて、第一歩を踏めたことが良かったと思います。

欧州で生き抜いていく
毎日が勝負。毎日の練習が戦い

香川がC大阪を離れてドイツ・ブンデスリーガのボルシア・ドルトムントに移籍したのは2010年の夏だった。日本の期待を背負う21歳の若武者は、黄色と黒をチームカラーとするクラブでブンデスリーガを連覇、熱狂を生み出した。その後、プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドに移籍する。以降、プレーした国は、イングランド、再びのドイツ、トルコ、スペイン、ギリシャそしてベルギーと6カ国に及んだ。

12年半、欧州で戦ってこられました。海外でプレーしてきた中で一番強く感じたことは何でしょうか?
いいことも悪いこともありました。何より外国籍選手でもあるので、結局は自分自身で打破するしかないんです。誰も助けてくれないし、自分で乗り越えるしかないので、そういうところは日本とも大きく違う環境ですね。ファンやメディアからのプレッシャーも強い。それは行かないと分からなかったことです。欧州に行っていろんなことを学ばせてもらいました。でも、欧州だから、日本に戻って来たからどう、とかではなく、これからも常に学んで成長し続ける気持ちは持ち続けていきたいです。
海外では、自分と向き合う時間も必然的に増える?
日本と比べる必要はないですが、単純に考えて、やっぱり欧州でプレーするほうが競争は激しい。そういう環境で日々戦っている選手はタフですね。
1年1年が勝負だったと。
毎日が勝負です。毎日の練習が戦い。毎日のトレーニングで感じる緊張感はありました。レベルが高ければ高いほど、要求も上がるし、ひとつのミスも目に付きます。いい準備をして戦い続けないと、すぐに足元をすくわれる世界ではあると思います。生き抜いていくためには、毎日の練習で自分がいい選手だと証明するしか方法はありません。ちょっとでも弱気な自分がいたら、スランプからは抜けられない。そういう気持ちをどれだけうまくコントロールしながら戦っていけるかも重要です。
そうした欧州でのプレー経験は、現在の自身を作っている大きな要素にもなっている?
もちろん。得てきた経験はこれからの自分にとっても大きなものですし、欧州で感じてきた気持ちはこれからも持ち続けながらプレーしていきたいです。

中高時代にうまくいかなくても
簡単にあきらめないでほしい

現在、多くの若手選手が次々と海外移籍に挑戦している。C大阪で先駆者であった香川のあとには、清武弘嗣、南野拓実らが続いた。いま、日本代表U-20で活躍する18歳の北野颯太も海外のビッグクラブでプレーする目標をハッキリ口にする。

競争の激しい欧州で生き抜いてきた先輩として、若き後輩たちに伝えられるものは何か。

香川選手のように欧州で活躍したいという思いを抱いている今のセレッソアカデミー生に向けて、助言があれば教えてください。
プロの世界で戦いたいなら、自分のストロングをしっかりと把握して、ピッチで自己主張して証明するしかないです。本当にシンプルなことです。世界で活躍したければしたいほど、そういう思いを強く持って、トレーニングすることが大事。メンタル的にもいい準備をし続けて戦うしかないんです。
そういう指針、土台をユース年代で作ることは大事。中学、高校で出来上がったメンタリティーは、プロに入ってからも大きな支えになる。逆に言えば、そこで誤魔化していれば、プロでは成功しない。シビアな世界です。やるなら上を目指す選手になってほしいですし、そのためには、「今」がものすごく大事なんです。どれだけ努力して、人よりも練習して、技術を高めて、自分のストロングをピッチで見せられるか。それを徹底して努力し続けないと、上には上がいる世界です。
そして何より、挫折や悔しい経験をしたときに、乗り越える術も学んでおくべきだと思います。僕の経験上、悔しい経験、うまくいかない経験をしている選手ほど最後は勝っています。中高でうまくいかなくても簡単にあきらめずに戦い続けてほしい。その中で、どれだけディテールにこだわっていけるかなんです。
一歩ずつ地道にやっていけばいいし、かつては僕も同じような立場でした。ドルトムントやマンチェスター・ユナイテッドでプレーしたり、日本代表で10番を付けてプレーしたりする姿は正直、想像できなかった。でも何が起こるか分かりません。タイミングや出会いもそうです。そういうものや出来事に常に感謝しながら生きていってほしいと思います。
上にいくためには、技術はもちろんですが、やはりメンタルが欠かせない?
ものすごく重要です。うまくいかないことが大半なので、そういうときにどれだけ前向きに努力し続けられるか。シンプルな思考でいいと思います。
C大阪に復帰された現在の目標を教えてください。
毎日のトレーニング、試合を戦い続けていく中で、これからの未来に対して、最終的にはクラブとして掲げている「タイトル」「トップ3」という目標をどう達成するか。逆算したときに、プロセスとしてやらないといけないことはたくさんあります。いろんなこともイメージしています。
ただ、日々のトレーニングをしっかりやること。そこは大前提です。絶対に見失ってはいけない。目の前のことに集中しないと、理想ばかり頭にあっても、きっとうまくいかない。そのバランスをうまく取りながら、毎週末の試合に向かっていくことが大事。2試合を戦ってまだ勝てていないので、まず勝点3を取った中で、どうチームとして向上していけるか。そこを常に考えています。
プレーし続ける上で、香川選手にとって、今の原動力は何ですか?
自分自身、まだ成長できる、もっといい選手になれると強く信じているし、感じています。それが原動力。そこがなくなれば、やめてもいいと思っています。ただ自分自身、まだ成長して、もっといい選手になれる、チームにプラスを生み出せる可能性をすごく感じているので、これからもすごく楽しみです。もっと成長したい、という根本にある思いは、サッカーを始めた頃から変わっていません。生きている以上、ずっとそういうメンタリティーでいたいと思います。
CHAPTER #2

セレッソ大阪、アカデミーの力

未来への engine

「世界に通用する選手の育成」を掲げたセレッソ大阪アカデミー。
セレッソ大阪から世界へ。
「未来に美しい花をたくさん咲かせたい」、
そんな未来への原動力に迫る。

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CHAPTER #1

アスリートたちの engine

なぜ、トップアスリートは挑戦し続けるのか。
戦い続けるトップアスリートの原動力に迫る。

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